「月刊フォーNET」2016年4月号掲載

 
 『絵葉書 九州横断全集 26枚』

 みうらじゅんの著書に『カスハガの世界』というのがある。カスハガとは?
「あまり名物のない地方の、絵ハガキセットに見られる、出したくも出されたくもない、カスみたいな絵ハガキのこと。気を確かにして眺めると、10枚セットのうち1〜2枚に「なんじゃあ、こりゃあ」というような絵ハガキが、混入されていることがある」という(「ほぼ日刊イトイ新聞」より引用)。
 写真でお分かりいただけるだろうか。別府のロープウェイの懸架アームに人影が写りこんでいる。一瞬「心霊写真か!?」と色めき立つ(のは私だけか)が、実はどうやら保守点検用の作業台らしきところに立っている人影にすぎないようだ。
 それにしても絵葉書の写真に、よりによってこんな怪しげな人影の写りこんだものを選とぶいうのはいかなる判断によるものなのか。謎である。
 他はごく普通の観光写真だ。よく言えば普通だが、面白みがないとも言える。この1枚だけが突出していて異様というか面白いというか。その違和感を「売り」にして出品してみたところ1年ほどして売れた。びっくりするほど高額なわけじゃないが、絵葉書としては十分にプレミア価格といえる額でもあり、それよりもなにより描いた通りのシナリオで売れたことで嬉しい取引となった。
 こういうものを「発掘」して売るのは楽しい。見過ごしていたら商品にならずに消えていただろうし、弊店が見つけなかったとしたら他の店が見つけ出したかと言うというと、必ずしもそうも言えないところが面白い。店主の見立てで商品を「作って」いく古書店ならではの面白みだと思う。


アジビラ 東アジア半日武装戦線 小包爆弾 』


 これも古本屋によっては売り物にしないかもしれない紙モノだ。とある牧師さんの蔵書から出てきた。アジビラといってわかってもらえるだろうか。「アジる」は近年とんと耳にしなくなった言葉だが、アジテーション(扇動)をつづめた言い方で、つまりアジビラとは他人を扇動する目的で作られたビラを言う。
 三菱重工爆破事件の犯人で死刑囚の大道寺将司の名がみえる。少なくとも珍品ではあろう。関東の別の古書店が買ってくれた。その店のホームページを見るとこの手の旧左翼の文献が多い。在庫目録には「全学連 全共闘 学生運動 労働運動 右翼 左翼 プロレタリア文学」などの語が並ぶ。弊店からお買い上げいただいた品々も稀覯本のような扱いで写真を撮られサイト上に並んでいる。
 忌まわしい記憶とともに語られるこの手の文書は、それだけに一層、打ち捨てられることはあっても残されることは稀だ。この書店には注目してみたい。