よかばい堂、イギリスの古本の村を探訪するの巻 (その1)2017年11月号
古本の買い取りをしていると、町から古本屋がなくなって淋しいという声を耳にすることがある。本好きにとって古本屋めぐりで時間をつぶし、買った本を手に喫茶店に入るというのは大きな楽しみなのだ。
ネットだけで本を売り実店舗を持たないよかばい堂店主としてはちょっと申し訳ない気分になる。店舗を持ってみたいとは思うのだが、家賃を払い在庫を抱え、店員を配置して経営をしていくのはそう簡単なことではない。
よかばい堂としても店舗イメージは3つほど持っている。
1)街中の店舗。駅の近くなどで交通量もあり看板効果が期待できる立地。
2)郊外のロードサイドタイプ。ネット古書店の在庫置き場と実店舗の併用というイメージ。
3)寒村・限界集落など移住者を募集するようなへき地。家賃が極めて安いか条件付き(「一定の雇用を創出すること」など)で無料の建物を想定。
それぞれ一長一短なのだが、現実的に考えると2)が最も現実的かと思う。スタッフの通勤などを考えると3)はむずかしい。
しかし、夢が広がるという点では3)が一番だ。なにしろ町おこしを想像するのだからわくわくするではないか。温泉があり、うまい食べ物があり、小さな宿が数件ある村に古本屋や中古レコードショップが立ち並ぶという光景は魅力的だ。マンガや歌謡曲などのサブカルにもウェイトを置いた店もあれば海外からの旅行者も来るかもしれない、などと考えるだけで楽しい。
というわけでそういう妄想癖のある古書店主が、現実にできてしまった本の町を見に行ったとお考え下さい。
場所は英国はウェールズ地方にあるヘイオンワイという小さな町。ヒースロー空港から車で3時間ぐらいだ。途中で風光明媚なコッツウォルズ地方の町で昼食をとったが夕方前には着いた。
本屋のある街並み
イギリスの典型的農村風景の中を数時間走りつづけ、そのうちだんだん道が細くなり、牛馬の臭いに満ちた集落を通り抜け、狭い道を80キロぐらいですれ違うどでかいトラックたちと(そう、英国のクルマはみんな飛ばす!)すれ違ったりしながらやっと着いた。
宿にチェックインし車を置いて徒歩で街中を散策。いきなりホテルの横に数件の古本屋があり、おおさすが名にし負う古本の町であるなあ感がうち寄せる。しかしその向こうはもう村はずれ。なんとも小さな村なのだ。気を取り直し逆向きに町の中心に向かう。
さて町そのものはよくあるヨーロッパの田舎町で、教会とその前に広場があり小さな城があり周囲に店舗が密集している。町中に多少の起伏があり坂道が多いのが特徴か。辺鄙な田舎町にしては店舗や飲食店・宿泊施設の数が多いのは観光客が多いからだろう。一目で外国人とわかるのは我々以外には一組の韓国人の若い女性二人連れだけだった。あとは英国内からの観光客か欧州諸国などからの客がほとんどか。
最も高い場所にある古城は、古本での町おこしの張本人であるリチャード・ブースが所有してい古書店としているらしい。残念ながら今回は修復のため閉鎖中だった。
このブース氏はこの地出身で、オックスフォード大学を卒業後、さびれゆく故郷を救済するための産業を考えた挙句古本を扱うことを思いついた。1962年に最初の店舗を開いて以来、彼のエキセントリックなキャラクターが引き起こす騒動をメディアで取りざたされるたびに町の知名度が上がっていき、結果としてそれが観光客を呼び込む誘因となった。
というわけで、特異なキャラクターのリチャード・ブースあってのヘイオンワイなのだ。町おこしで真似しようと思ってもそう簡単にはいくものではなさそうだ。(この項来月に続く)