福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

古本屋はなぜ他の古本屋に本を売るのか?の巻

 古本屋同士の交換会については何度か書いた。今回はなぜ古本屋同士が本を交換(売買)しあうのか、ということについて説明してみたい。実は筆者もこの業界に入りたての頃はわからなかった。

 「自分で売れば1万円で売れるのになぜ他の古本屋、つまり商売敵にそれよりも安く、たとえば3千円や5千円で売るのか?」という疑問だ。最近になってようやくその意味と経済合理性が理解できるようになった。自分自身のアタマを整理する効用もあるので説明してみたい。 

 まず前提としてこの業界には問屋というものが存在しない。新刊本屋なら、出版社があり日販や東販という大手取次があってそこから本を仕入れるのだが、古書業界にはあたりまえだがそれがない。

 古本屋が本を仕入れるのは個人・法人の蔵書家からだ。ここで最初のポイントがある。10の古本屋があれば、仕入れる本の量はまちまちだ。A書店は勤勉だが、B書店は怠惰、C書店は愛想がよいがD書店は不愛想、E書店の立地は賑わいの多い表通りだがF書店は辺鄙な場所…。当然ながらそれぞれの買取りの量も違ってくる。さらに、それを保管する場所の問題がある。G書店は郊外の広大な倉庫を安く借りて営業している、H書店は駅の構内に1坪の店を開き自宅マンションに在庫を保管している。

 つまり実際の買取りはこれらの要素が絡み合って、大量に仕入れる本屋と仕入れの少ない本屋、大量に在庫を置ける店と置けない店とができてしまうことになる。

 大量に仕入れる店だってほんとうは自分で全部出品したい。そうすりゃ1万円の本は1万円で売れる。しかし、書庫はもう一杯でこれ以上入らない。不良在庫を処分して場所を作ってもまだ足りない。追い打ちをかけるかのように買取り依頼が引きも切らない。さあどうする。

 買い取った本が店内に積みあがって、どうしようもない場合、短期的にはその一部を処分するしかない。残念ながら古本は値下げして在庫一掃することが難しい。食品なら安くすれば売れるが、古本はいくら安くし

てもほしくない人は買わない。

 そこで交換会に出品するのがもっとも手っ取り早い処分法ということになる。しかも若干でも手元に現金が入る。もちろんヤフオクで一箱1円スタートしてもいいのだが、そのためには写真を撮って説明書きを書いて梱包をして、と意外と面倒だ(時間とコストがかかる)。下手をすれば1円で落札されるかもしれないし(リスクがある)。交換会なら箱に入れて持っていけばそれでいい。

 いま短期的と書いたが、では長期的にはどうだろうか? どうしても1万円の本を他の古本屋に3千円で売るのはイヤだ、と自分で売ることに固執した場合どうなるか。まず置き場の確保が必要だ。そのために家賃を払う。しかし自分ひとりでその全てを整理・出品するのは手が不足だ(古本の出品は手間だ。どういう素性の本か特定し価格を決めるのに数時間調べることはよくある)。その手間がかけられないならば、本はただひたすら堆積し不良在庫化していく。それを避けるために人を雇うと人件費が発生するし、職場を提供するには家賃を払い机やパソコンも準備しなければならない。つまり自前で出品して販売するには販売コストがかかる。

 ここまでくればわかるのだが、その販売コストをかけて自前で売るのと、他の古本屋に安く売るのとどっちがトクか?という話になるわけだ。商売敵に本を売ることも決して不合理ではないことがわかる。

 見方を変えると、他の古本屋に売るということは、その人に人件費を払い在庫保管コスト・出品手数料その他もろもろの諸経費を支払って「外注」したと考えてもいいわけだ。