福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

サブカルチャーの本が高い昨今

 古本市場での全集や学術書・文芸書などのいわゆる「堅い本」の下落傾向が止まらない。インテリの必需品のような本、持ち主の知的威信を裏打ちするような本、とでも言おうか、一時期の日本の読書好きの垂涎の的だったような本が安いのである。

 こうやって書いて気づいたのだが、「インテリ」「知的威信」などという言葉自体が近年目にしなくなっており、既に死語になっているのではなかろうか。

 典型的な例として「定本 柳田國男集」(全36巻 筑摩書房)を取り上げてみたい。現在ヤフオクでは全巻揃って四千五百円から一万一千円で推移している。

 十年以上前私がまだ「せどり」をしていた頃、ブックオフの百円コーナーでこの全集のセットを見かけて嬉々として買ったことがある。(余談だが、私はもはや「せどり」ではなくなっており、いまや普通の古本屋だ。その意味でこのコラムのタイトルは羊頭狗肉と言わないまでも、実態と離れてしまったと言えそうだ。松本編集長、何か素敵なタイトルがあったらお願いします!)

 いくらで売ったか忘れたが数万円で売れたのではないか。それが今では下手をすれば四千五百円である。一冊づつ書込み線引き押印がないか、月報はついているかチェックして、段ボールに入れて発送して数百円の粗利では経費を引くと赤字だ。作業を人件費に換算すれば数千円のコストとなる。最高値の一万一千円で売れたとしても大した利益ではない。

 実は古本屋が全集を忌避するのはもう一つ大きな理由がある。それは「場所ふさぎ」だということ。

 全巻セットを36冊も置くなら一冊千円の粗利を生む本を36冊置く方が遥かに効率が良い。なので古本屋が喜んで買う全集ものは三島由紀夫安部公房などわずかなものに限られてしまう。

 代わって活況を呈しているのはサブカルチャー系だ。マンガ、雑誌、グラビア、アイドル、歌謡曲、ポップス、ロックなどいわゆる文化の本筋に対抗して台頭してきたもの。何の変哲もない雑誌に数万円付くこともある。

 ただ誰がどんな理由で買い集めているのかわからないのが、ネット古書店の悲しいところだ。これが対面販売なら客の年齢性別や外見から窺い知れる情報もあるし、常連ともなれば人となりも分かるだろう。なので、なぜそんなに高値が付くのかわからないことが多い。一時期「週刊テレビガイド」や「週刊宝石」のバックナンバーに軒並み数万円付いていたことがあるが、誰がなぜこんな価格まで競っていたのかは謎のままだ。お気に入りのタレントのレアな写真か記事が掲載されているのだろうか、あるいはバックナンバー全冊を完全に揃えることに情熱を注いでいるのだろうか、と想像するばかりだ。

 ただ、ときおり「ははあ、これが人気の要因か」と推理の手がかりを見つけることがある。ヤフオクのタイトルに「週刊◯◯  ◯年◯月号 原田知世 剣道着」とか「週刊ヤング△△  グラビア 上戸彩 スクール水着」などと呼び込みの声のごとく大々的に書き込まれていて、それらが高額に落札されているとなると、高値のカラクリを見つけた気がする。

 いずれにせよ全集を数十冊在庫に抱えておくよりも、はるかに利益率の高い本が雑誌や写真集などに混じっているのだ。サブカルチャーを無視しては商売がしにくい時代になって来ているのは間違いないだろう。