福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

よかばい堂 大阪出張の巻  2017年10月号掲載

 つきあいのある広告代理店から、全国紙の関西都市圏版に急遽空きが出たのでなんとか出稿してくれないかと泣きつかれた。困ったときはお互い様だし広告料は格安にしてくれるというので試してみた。
 とは言うものの関西である。買い取りに行くには遠すぎるから、宅配便で本を送ってもらう「宅配買取」の広告にした。
 関西版だけあって当然のことだが福岡よりも発行部数も多く、九州の古本屋の広告だというのに予想の反応があった。
 京都の年配の方からは70年代のアイドルのレコードをたくさん送っていただき、買い取りが成立。
 宝塚の方から中原淳一のイラストで人気の高い雑誌のバックナンバーを売りたいという話が入ったが、長年大事にされた方には申し訳ないような金額になりそうだったので「無理してお売りにならずにお手元に置いておかれてはどうでしょうか」と申し上げた。
 ここでちょっと補足すると、大事なコレクションを本人が売りたいという場合、商談が成立しないことが多い。いくら大事なコレクションでも古本相場が安いことはよくある。その場合冷徹な市場価格に基づいた査定を受け入れることができず、感情的な反応を示されてしまうのだ。それが予想される場合は査定額そのものを伝えずに、残念ながら今では古本の値段が下がってしまったので無理に売ることはないと思いますよ、などと伝えてやんわりとお断りしてしまう。このテクニックは最近になってやっと会得した。今回の場合は雑誌の復刻版が数年間に出たので、全体的に価格が下がってしまったということも伝えて納得していただいた。
 さてもう一件は、亡くなったご主人が経営していた学習塾の本を見てほしいというご希望。大した本はないかもしれないけれど、捨てるには忍びないので使える本は必要な人の手に渡してほしいという趣旨の電話である。こういう場合は話は成立しやすい。
 本を売る人には2種類ある。ひとつは少しでも高く売りたい人。もうひとつは本を処分したい人。前者は少しでも高く買ってくれる古本屋を選ぶ。だから電話の段階で慎重な判断が必要だ。出張先まで出向いて話が成立しないと一日棒に振ることになるからだ。
 一方後者は処分が目的なので、自分で処分のコストを負担してもよいと思っている人もいる。ときおり正直に「処分までしていただいてお金までいただけるなんてありがたいです〜♡」などと言われることもあるぐらいだ。
 さいわい大阪のご婦人は後者のだったので、電話だけで即断して大阪出張を決めた。最悪でも大コケだけはしないだろうという勝算があった。その目論見を支えていたのは学習参考書という特殊な分野の本が買えそうだから。後で詳述する。
 さすがに大阪まではクルマで行くとしんどいので新幹線にした。そうなると本の梱包・運搬の準備がいる。まずは事前にグーグルマップで段ボールの調達できそうなホームセンターや郵便局をチェック。配送はヤマト運輸の「ヤマト便」が安くて便利。その伝票の準備などもする。この辺、現地であたふたするのは避けたいものだ。
 さて朝博多を発ち昼前に現地到着。古びてはいるが住宅地には稀な鉄筋コンクリート造の建物。品の良い奥様にご案内いただくと、予想通り学習参考書の山。実はこの分野、時折高額なものがあるのだ。なぜ古い参考書や問題集に高値が付くのか? これは推測だが予備校講師たちが模擬試験の作成や授業のネタとして古い情報を探しているからではなかろうか。温故知新ですね。推測の当否はどうであれ、高値で売れる本が幾ばくか混じっていれば出張経費は回収できる。
 さて、無事買い取りは終わり見積額を申し上げると上品な奥様は「そんなにい要りません。半分でいいです」とおっしゃる。なんとひさしぶりの「逆値切り」だ。
 つくづく思うがこれって経済合理性だけでは説明がつかない。本を高く売るより「捨てたくない」という動機の方が強いのだ。
 紙面はここで尽きたけど、こんどはこの辺りについてもう少し掘り下げて書いてみたいと思っている。