「月刊フォーNET」2012年10月号掲載分
東京大空襲秘録写真集
雄鶏社編集部 (編集)
出版社: 雄鶏社 (1953)
- 作者: 雄鶏社編集部
- 出版社/メーカー: 雄鶏社
- 発売日: 1953
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東京大空襲は終戦の年だから、そのわずか8年後に出版された本。
有楽町の駅にうずたかく積まれた死体の写真の横には「首のない者、手足のない者、大腸の露出したもの等全く正視にしのびない」「四、五才位の女児が全身に血を浴びながら、その傍にすでに息絶えたまだ年若い母の亡骸にすがりつき、母の名を連呼している。見れば母の顔は面をむしりとったようになり、両足も太股から千切れている」とある。
まるでポルポトのカンボジアかアフガニスタンの報道写真だ。あるいはシリアの内戦か。いずれにせよいまのわれわれが最も遠いと思っている世界。それとほとんど同じ光景が有楽町に(そしてきっと日本のいたるところで)現出していたとは想像しづらい。
写真の少女も生きていればまだ七十前。われわれの親より若い。高い確率で生きているだろう。たかだか60数年前のことだ。
最後のページには銀座4丁目交差点の数年おきの写真。1945、50、53年と歳を追うごとに光が増える。「戦後8年の歳月はこの傷をいやして、東京に昔日の或は昔日以上の反映を与えている」とある。8年で大きく復興した。いまは8年前と大きな変化はない気がする。
お買い上げの主は、超有名企業の元社長と同じ名前。お住まいからしておそらくご本人だろう。
日本のジャズ史―戦前戦後 (1976年)
内田 晃一 (著)
出版社: スイング・ジャーナル社 (1976/11)
- 作者: 内田晃一
- 出版社/メーカー: スイング・ジャーナル社
- 発売日: 1976/11
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帯にはこうある。「ボクが高校生のとき、宇都宮で一緒にジャズをはじめた内田さんが本書を刊行された。ボクのことを大変ホメてあるのでオモハユイが、その内容は日本のジャズの歴史を詳しく語りつくしてある。多くの若者にぜひ読んでもらいたいーー渡辺貞夫(サックス奏者)」
この渡辺貞夫通称ナベサダが高校生の頃からバークリー音楽院に留学するまでのことが記されており、このあたりをちょっと読んでみた。先に渡米した秋吉敏子が彼の留学のために東奔西走して奨学金を獲得してくれたとある。
ぱらぱらとめくるだけでも絢爛たるミュージシャンの名前が並んでいて興味は尽きない。上にあげた二人の名前は日本のジャズ界を代表するビックネームだが、ジャズだけでなくその後の芸能界でさまざまな分野で活躍した人が登場する。戦後の米軍相手のジャズにいかに多くの才能が集まっていたか。
「無責任男」となって一世を風靡したり(植木等)、「帝国」と呼ばれるほどの権勢を振るった芸能プロダクション「ナベプロ」を作ったり(渡辺晋)、アメリカのヒットチャートの週間ランキングで一位を獲得した「上を向いて歩こう」を作曲したり(中村八大)、そういう連中がひしめいていた時代を活写した本書が面白くないはずはない、と思うのだが売れてしまったものを読む時間はない。せめて旅立つ本は気持ちよく見送ることとしよう。