福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2016年1月号掲載分

『日本の喜劇人』中原弓彦 昭和47年 晶文社
『唄の自叙伝』。西條八十 昭和31年 小山書店

 この商売をしていると時として本に挟まれている面白いモノに出会うことがある。
 よくあるのは葉書やチケット類。飛行機の搭乗券などは、ものによっては航空マニアの収集の対象となったりもする。
 時として本そのものよりも、興味深いものが見つかることがある。今回はそういう2冊を紹介したい。どちらも前の所有者は福岡在住だった故人とだけ書いておこう。
 1冊目は1972年発行の単行本『日本の喜劇人』。著者の中原弓彦小林信彦の別名。
 のちに新潮文庫にも入っているがすぐに品切れになるのでプレミア価格になっていることが多い。
 サブカルチャー界隈には影響力があり、かの大滝詠一もこの本に勇気づけられたというようなことをどこかに書いていたと記憶する。
  手元にある本の扉には前所有者の筆跡か、鉛筆で4つの日付が書かれている。1972年のものがふたつと1999年と2008年のもの。何度も読み返したのだろうか。
 この本に脚本家の山田太一氏からの葉書が挟まっていた。消印は1999年。特徴のある字体で福岡に仕事で寄ることなどが書かれている。
 もう一冊は、西條八十の『唄の自叙伝』。昭和31年発行。
 まずは2枚のチケットが入っていた。「テレビ公開放送 ご招待券 第6チャンネル JOKR−TV」とある。TBSの前身KRテレビのコールサイン。「公開放送」とあるのにご注目。録画ではなく生放送だったのだろう。「とき・昭和31年8月14日 午後8時会場  ところ・産経会館 5階国際ホール」とある。番組名は「明色トリオゲーム」。スポンサーは桃屋順天館。明色アストリンゼンで知られる化粧品会社だ。出演者には三遊亭小金馬江戸家猫八の名がみえる。
 それにしても開場が夜の8時というのは今の感覚だと遅い。ただ、当時は収録ではなく生放送だったにちがいない。高価なビデオテープへの録画はしたくてもできなかったはずだ。っていうかビデオテープ存在してたのかどうかもよくわからいが。数年後の人気番組「シャボン玉ホリデー」ですら録画がろくに残っていないぐらいだ。
 9時ごろからの生放送だったのかもしれない。ネット検索してもこの番組の詳細はわからなかった。
 この本にはさらに別のモノが挟まっていた。北澤彪と署名がある便箋。おそらく俳優の北沢彪のものと思われる。1911年生まれの彼はラジオドラマの「君の名は」(昭和27-29年)の主役を演じた。銭湯から人が消えたというエピソードが有名だ。この手紙はその数年後のものだろうか。記念写真を送ってくれたお礼が述べられている。
 これらの「おまけ」は時として本そのものよりも高値が付くことがある。しかし今のところばらばらに売る気はない。本と一体となっている方が興味深いと思うのだがどうだろうか。