福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2016年6月号掲載

ヒッチコックマガジン」 創刊号から31冊セット
「ミステリマガジン」 創刊号から180冊セット

 
 ミステリーの雑誌では「ミステリマガジン」(以下ミスマガ)がメジャーだが、古本市場にも多く出回っており近年は相場も下がっている。創刊号を含む100冊以上のセットでさえ1冊あたり数十円だ。
と書くと「いや、ヤフオクでは1冊××百円で出品されている」とか「他のサイトでは創刊号が2千円ででているぞ」などという人がいるが、それは単に出品されているにすぎず、実際の取引価格ではない。高値で何年も店晒しになっている古本はたくさんある。本の価格は、「この値段で売りたい」という売り手の意思表示にすぎない。現にアマゾンには怪しげな出品者が何の変哲もない本に数万円を付けて出品している例はごまんとある。
もうひとつ。数百円とか数千円という価格は1冊ずつ売った場合のものだ。そういう売り方もるにはあるが、そのためにはいくつかの条件をクリアしなければならない。それができないときは、まとめて売った方が得策だ。
どういう条件が必要か? ネット販売に即して考えると、第一に1冊ずつ値付けして、場合によっては写真撮影をしてアップして…という煩雑な作業があり、それを担うマンパワーを確保しなければならない。当然それらはコストに上乗せされる。仮に1冊の出品に5分かかるとしよう。時給1200円のアルバイトがやったとして、一冊当たり100円の人件費が上乗せされる。10分かかれば200円だ。
第二の条件。売れ残りを計算しなければならない。仮に100冊出品したとして、1年後すべてが売れていることはまずない。雑誌にもよるが半分ぐらいは残るだろうか。数年かけても全部売れるとは限らない。
第三の条件。在庫コストを覚悟しなければならない。売れるまで在庫はスペースを占有し続ける。仮に1万冊の保管スペースを5万円で借りたら、1冊あたり毎月5円かかる。1年で60円だ。50冊売れ残れば1年分の保管料は1500円を超えることになる。それを廃棄すると、出品時の人件費(100円×50冊=5000円)も一緒に捨てることになる。
実感に即して言うと仕入れたばかりの本は「原材料」に過ぎない。商品化するには加工(クリーニング、値付け、写真撮影など)が必要だ。よくある勘違いに「古本屋は儲かるはずだ。安く買い叩いた本を何千円とか何万円とかで右から左に売るんだから」というのがあるが、では現実に御殿を建てた古本屋の話を聞かないのはなぜだろう。じつは上に見たように加工や保管のコストがかかるからだ。
もちろん「右から左に売れる」よりも、何年もかけて売れる本の方が多い。
上の説明はネットで販売するビジネスモデルのものだ。店舗で売るなら出品の手間は不要だろうといわれるかもしれないが、店舗には別の問題があるのだろう。多くの老舗古書店が店を閉めネット専業に移行している。残念ながらよかばい堂には店舗が無いのでよくわからない。
さて、最後になったが今回の主役「ヒッチコックマガジン」は、1冊あたりミスマガの10倍以上で売れた。マイナーな方が出回る量が少なく値崩れしていないものの好例か。
 今月はいつもと違い、古本屋経営入門のような内容になってしまった。