福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2016年7月号掲載分

講談社『秘宝』全12巻 昭和42年
ダイワ 釣具総合カタログ DAIWA 1975年

 本を売りたいという電話を毎日受けるが、売り買いが成立することは半分もない。大半は「百科事典を売りたい」「文学全集を処分したい」という話なので、残念ながら商談は成立しない。
 どちらの本も購入した当時は数十万円前後だったはずだから、自分で捨てる勇気のある人は少なく、本人の死後に家族が処分することが多い。コンテンツがデジタル化されてしまった現在では百科事典と文学全集には客がつきにくい。スマホでなんでも検索できるうえ、多くの文豪の小説は著作権フリーだから無料で読める。
 一方で無料で配布されたカタログのような代物は、数十年経つといまでは残っていること自体が珍しく高値が付くこともある。今月紹介するのは、そんな対照的な二種類の本だ。
 ひとつはダイワ釣り具のカタログ。まず最初に捨てられるものの代表だ。
 子供のころ、欲しい商品が満載されたカタログを見てワクワクした経験がある人も多いのではなかろうか。ステレオやラジカセのカタログをためつすがめつした少年時代を思い出す人もいるだろう。かく言う私自身がそうだった。興味の対象は人それぞれ。釣り具もあればおもちゃやクルマ、洋服やファッション小物などいろいろあるだろう。
 この釣り具カタログは弊店のスタッフが捨てられる寸前にあったものから見つけ出してくれた。よかばい堂店主は見逃していたが、彼女が売れるのではないかと嗅覚を働かせたのだった。実際かなりの高値で2冊売れたので、少し早めの土用のうなぎをみんなで食べに行くことにした。文庫本程度のカタログがその程度の売り上げになったとだけ申し上げておこう。
 一方でこれ以上ないほどの豪華本全11冊をついには廃棄処分にせざるを得なかったという話をしたい。
 講談社の『秘宝』全12巻という50年近く前の超豪華本。1冊4万円弱で全巻揃えると40万円。当時のクルマが1台ぐらいの価格じゃなかろうか。ただ残念なことに1冊欠けており11冊しかなかった。これも売りづらい理由のひとつだった。そうでなくてもデジタル化された映像が安く、ときには無料で見られるようになったので、場所ふさぎな大型本をありがたがる傾向は近年きわめて小さくなっている。
 買い取った先は大きな病院の創立者の未亡人。大邸宅には美術・茶道・謡曲の全集が並んでいる。茶道の全集には製薬会社の社名が刻印されている。医者本人はもとよりその奥方への営業も忘れぬ製薬会社の深謀遠慮おそるべし。
 で、その『秘宝』だが1冊おそらく10キロはあるだろう。。11冊で100キロ以上。あまりのかさばりように不安を感じたが、美術全集の中ではあまり見かけない本なので安くすれば売れるだろうとたかをくくっていたら大間違いだった。ネット上ではそこそこの値段で出している店もあるが売れた形跡がない。オークションでも落札されていない。
 古書即売会で安値でバラ売りしたが1冊も売れなかった。かといってこんなにかさばるものは店に持ち帰っても邪魔だ。やむをえず全国規模の古本チェーンに持ち込んだが、なんとそこでもゼロ査定されその場で所有権を放棄したのだった。
 正直ここまで不人気だとは予想外だった。甘かった。古本屋でもこんな失敗をするのだから、一般の人が百科事典や文学全集を売れるだろうと思うのはやむを得ないかもしれない。