福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2011年11月号掲載分

『戦後昭和行刑史』
小野義秀 財団法人 平成8年 矯正協会


1930年生まれの著者は九大を卒業後刑務官となり定年退官後に本書を著している。行刑という言葉は聞きなれないが、「刑の執行を行政的に実質化したもの」だとのこと。
 出荷前に売り物の本をぱらぱらとめくってみるというのは古本屋のささやかな役得だが、興味をひかれる本はさほど多くはない。この本は珍しく目を引く箇所があった。
 「死刑囚T・Sの法律闘争」という項がある。死刑囚の法律闘争とは何ぞや? 
「ほとんどすべての人を不快にさせるエゴと卑劣さの持ち主だが、まれにみる能力と集中心を持って約十年にわたって当局との長い法律闘争を繰り広げたT・S」。彼は昭和30年に死刑が確定した後も、差し入れを受けた法律書で独学を続け、拘置所の幹部や職員を片っ端から職権乱用などで告訴していった。これを受理した検察官は関係職員を一応取り調べてからすべて不起訴処分にした」が、この効果たるや絶大で、被疑者として検事の取調べを受け何か悪いことをしたかのような錯覚に陥り、告訴を回避するための妥協が始まったという。
 「そのうちT・Sは告訴を処理する検察官まで職権乱用で告訴する始末、膨大な直告事件の処理に困惑し調べに当たった検察官が、行政処遇に対する不服を救済したいというのであれば、「行政訴訟」という手続きがあることを暗に示唆した」ら、今度は行政訴訟に取り組み、原告として出廷したという。引用したいのはまだあるが、紙面が尽きた。
 昭和37年の死刑執行まで12年間、この反抗が続いたという。


『米和不動産用語辞典』
米和不動産用語辞典 (改訂版)
村田 稔雄【編】
住宅新報社 (1998/02/19 出版)

 めったに鳴らないよかばい堂の電話が鳴る。「アマゾンで本を見ました。すぐに必要なので決済したらすぐ送っていただけますか?」とかなり切迫した様子。
 いきなり電話をかけてくる人(特定商取引法の要請もあり弊店は電話番号を公開している)は、自己中心的で自分にだけ都合のよい取引条件を切り出してくるケースが多いが、この人は声の感じからしてそうではなく、穏当な口調でただひたすら急いでいるという印象。
 聞くと東京在住で、翻訳中にこの辞典がぜひとも必要となったので、送料超過分は自分で払うので、着払いの宅急便で送って欲しいとまでのたまう。ちなみに通常だと安いがあまり早くないメール便で発送。
 そこまで言われると、こちらも意気に感じるものがある。わかりました、すぐにお送りしましょう、とお約束した。
 翻訳の苦労はわからいこともない。店主もサラリーマンのとき翻訳の真似事をやらされたことがある。たとえばcommission という単語は前提がない場合は「口銭」や「コミッション」と訳すこともできるが、不動産の世界では「仲介手数料」以外はアウトである。専門用語というのはそういうものだ。これは英語力の問題ではない。日本語の約束事だから、知らなければどうしようもない。そのためにこういう特殊な専門の辞書が必要となる。