2011年2月号掲載分
『魔法のバテレン 金鍔次兵衛物語』
松永伍一著 平野遼・絵
偕成社 1989年
偕成社は児童文学や絵本を多く出している出版社。松永伍一は福岡は八女出身の詩人。たしか八女高校で五木寛之の先輩にあたると記憶する。共著で『日本幻想紀行』という対談集も出している。偕成社からこども向けのキリシタンものを4作だしており、これはその中の1冊。
金鍔次兵衛は大村出身のキリシタンで、弾圧により国外追放となりマカオ経由でマニラ入りそこで宣教師となる。へえ、不勉強なので知らなかったが、徳川の御世にもこんな人がいたのか。その後、密航して日本に戻り長崎奉行所で馬丁になりすまして布教を行うが徳川幕府から指名手配となり長崎で殉教したらしい。
と、以上は本のカバーにある説明文とウィキペディアのにわか知識を切り貼りしたもの。これでもじゅうぶん興味深いのだがそれ以上に面白いのは、この次兵衛、幕府に追われている間も長崎の山中に住んだり、変装がうまく追われながらも江戸城深くにもぐりこんで将軍家光の側小姓(お稚児さん)たちに伝道したりと、興味深いエピソードがいろいろとあるキャラクターらしい。
時間があったら読んでみたいと思うし、大人が読んでも充分な内容だろうから、4部作まとめてどこかの出版社が文庫化してくれないだろうか。小生がそう思うぐらいだから、プレミアがついていても読みたいと思う人がいても不思議ではない。在京の大学の先生にお買い上げいただいた。
『芸夢感覚』
フランキー堺
集英社 1993年
フランキー堺といっても、知らない人も多くなっただろうか。15年前に亡くなった昭和を代表するコメディアンの自伝。現在品切れ中。しかも扉には本人のものと思しきサイン入りときたら、プレミア化する理由は充分ありそうだ。
発送前に例によってぱらぱらとめくって中身を見る。読む、というほどではなくあくまでも見るという感じなのだが、面白そうな箇所だとつい読みふけってしまう。
麻布中学時代のエピソードが面白そうだ。小沢昭一、中谷昇、加藤武、内藤法美、なだいなだが同じ学年にいた、というのだからそれだけで興味深い。これらの名前に馴染みのない読者のために簡単に説明すると、小沢、中谷、加藤は俳優。内藤は作詞家で故越路吹雪の夫。なだいなだは精神科医でエッセイスト(こんなことを書くと、昭和も遠くなったのだと実感する)。
校内で机やいすを壊して焚き火をし煙草を吸っていた彼らが、ある日教師に見つかり現場でこってり絞られる。それと知らずにその秘密基地へ赴くフランキー。ドアを開けたとたん教師から「堺ッ、貴様もかッ!」と詰め寄られたときに切り返したセリフがふるっている。「もしや火事かと思い、駆けつけましたッ」
そのおかげで教師からは免責されたが悪友たちからは裏切り者呼ばわりされる、というあたりが面白い。