福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2011年8月号掲載分

レース 歴史とデザイン
アン・クラーツ(著), 深井晃子 (訳)
出版社: 平凡社 (1989年)
 写真でごらんいただけるだろうか。表紙に女性の後姿。背中に大きなレースがあしらわれたカクテルドレスはサンローランが1977年に発表したものという。
 裏表紙にあるのは、ひげを蓄えた男が、鎧の上からレースを首に巻いた肖像画だ。この二つの写真がレースの歴史の新旧を象徴している。
 この手の本は高値がつきやすい。もともとが高額である上に類書が少ない。図版の多い高コストの本は出版社も重版には慎重にならざるを得ない。で、いったん品切れになると入手困難になりやすい。図版が重要な本なので、図書館で借りて読んで終わりというわけにもいかない。
 仕事や趣味でレースの世界に深入りしてしまったら、手元に置いておきたくなる本なのだろう。
 専門書には、どこかに「へえ!」というようなトリビアがあるのだが、この本で見つけたのは、17世紀にはむしろ男がレースを身に付けることが多かったという事実。若いイケメンの兵士が、身にまとった鎧の首周りにレースを巻き付けている絵や、結婚式に集まった多くの老若男女がみんなレースの飾りを首に巻いている絵(ヴィレム・ヴァン・ルーンとマルガレータ・バスの結婚、アムステルダム、ヴァン・ルーン財団))など、なかなか見ごたえがある。
 

剣の刃
シャルル・ド・ゴール(著), 小野繁 (訳)
出版社: 葦書房 (1993年)

 シャルル・ド・ゴールはフランスの軍人にして戦後初の大統領。この本は、そのド・ゴールが陸軍大学でおこなった講演をまとめたもの。なんでまた、そんなものを本にしたかということが気になり、ぱらぱらと本を開いてみる。
 訳者前書きによると、ド・ゴールは学生のとき学校当局と意見が対立して成績は悪かったが、第一次大戦の英雄ペタン将軍からは評価されていたので、居並ぶ大学幹部を前に講演をさせられたという。
 ここで「あれ?」と感じる方もいよう。ペタンといえばナチスの傀儡政権(ヴィシー政権)の首相で、ド・ゴールの敵のはず。そのペタンが学生時代のド・ゴールをかわいがっていたとは知らなかった。
 それにしてもかような本がなぜ福岡の書肆葦書房から出版されたのだろうか。奥付にも訳者の経歴は記されてない。わずかに前書きに5年間フランスに留学していたとあるのみ。ネットで調べてみたら、どうやら著者は地元の大学の政治学の教授で防衛政策学会に所属している方のようだ。
 今回はじめて知ったのだが、意外なことに回顧録以外にはド・ゴール自身による文献はほとんど翻訳されてない(著作そのものが少ないのかも)。このあたりにプレミア化の理由が潜んでいるのかもしれない。アマゾンにはレビュー(一般読者による感想・紹介文)が2点ありいずれも満点でこの本を評価している。