福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

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2012-05-22 「月刊フォーNET」2012年6月号掲載分

生体系の水 [単行本]
上平 恒 (著), 逢坂 昭 (著)
出版社: 講談社 (1989/05)

生体系の水

生体系の水

元北大教授と元国立予防衛生研究所のふたりの著者になる専門書。本の送付先は某大手食品関連企業の研究所。
 いまでは生態系とか水とか時代のキーワードとなっているが、出版された当時はバブル経済の真っ只中だから、時代の雰囲気から隔絶した超然とした研究だったことだろう。
「地球上に存在する液体の中で、水ほどその諸性質が詳しくのべられ、かつ高い精度で測定されている液体はほかにない」。
 いきなり「地球上に存在する液体」である。そういうくくりで液体を考えたことがなかったから新鮮だ。地球上に存在する液体…。血液、石油、油、液体窒素、水銀、コーヒー、味噌汁等々。意外と出てこない。結局出てくるのは食べ物か飲み物。化学的にはそれらは、不純物を含むH2Oの別名に過ぎない。
 さあ緻密な科学的な実証が始まるぞと思いきや、意外なことに後に続くのは以下の文。「その理由は、水はすべての液体の中で最も重要であり、しかもこのよううな広範な研究を行うに値するきわめて魅力ある物質であるという点にある」
 証明も実証も抜きでいきなり「重要」「魅力」という定量化しづらい文科系タームで根拠づけをする。このつかみは素晴らしい。書き手も読み手も人間だからね、と言われているようで。



英語の学習20の階段 新訂増版 [単行本]
佐々木 高政

出版社: 金子書房; 新増補版 (1995/10)


英語の学習20の階段

英語の学習20の階段

 50年以上前の英語の参考書である。同じ著者による『和文英訳の修行』は英語の参考書の古典的名著として有名だ。近年に至るまで新訂版が出ており、著者がいまだにご存命だと知る。ウィキペディアによると1914年生まれというから、今年で99歳ということになる。
 その著者による参考書だが、こちらは中学から高校までの英語を20のステップに分けて解説したもの。そういう本が、いったい誰に向けて書かれているのかよくわからないが、近年よくある社会人向け「やり直し中学の英語」のようなものか。それとも中高一貫の私立学校向けにカリキュラムを組み替えたものなのかもしれない。
 当時の雰囲気が伝わってくる文体が趣き深い。
「このような動詞の形を受動態(passive voice)又は受身形と言い、それに対し普通の形の方を能動態(active voice)と申します」
 「と申します」という口調に、昭和の雰囲気が感じられる。しかもそこはかとないジョークも忘れていない。
「文法の問題でChange the Voice.などというのがよくありますが、これは「声変わりせよ」なんて無理な要求ではなく、「動詞の態を変えよ(能動態⇔受動態)」ということです」