福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2015年6月号掲載分

『無双直伝英信流 居合道入門』
坂田敏雄 著 昭和48年
滝川居合道研究会

 表紙の写真は判りにくいので扉のものを使用した。かなり稀少な本でネット上で探した限りはこの本を扱っている店を見つけることはできなかった。
 グーグル検索をかけると、居合道に熱心なブログが見つかりそこでこの本に言及されているのを知る。このようにその書籍に言及しているブログや本がある場合はその本を買いたい人がいる場合が多い。そしてそういう人はある程度の予算を準備していることも多い。これは経験から言えることだ。
 案の定、かなりの高額なプレミア価格でオークションをスタートしたにも関わらずすぐに入札が入った。入札者は入札代行業者(近年そういう商売があるのだ。主に外国からの入札者のために入札を代行する)なので、実際の購入者は国外にいるのかもしれない。
 かなり使い込んだ本で、書き込みだけでなく手書きの紙が挟んであったり貼り付けてある。書き込みは嫌がられることもあるが、こういう習い事関係の本は書き込みがむしろ参考になると好まれる場合もある。
 前所有者は海軍出身者だったようで、軍記や戦艦の模型などの間に挟まれてこの本が入っていた。



山中鹿介
土師清二作 木俣清史画 昭和16年
小学館

 
 飯塚の旧家から出てきたとのことで、リフォーム関係の方が持ち込んでくれた一冊。表紙は煤けてしまったが中の絵は色鮮やかに残っている。
 戦前の子供向けの絵本。毛利氏に滅ぼされた尼子氏の家臣だった山中鹿介が滅私奉公の忠君であり理想的な武士として描かれている。
 物語の進行役である作者が時折文中に顔を出し教訓を垂れるところが興味深い。たとえば鹿介と菊池音八の一騎打ちの場面では「勇士と勇士が戦場で出合つた時は、敵もみかたも、手だしをするのをひかへてけんぶつします」とある。なるほど戦国時代はそうだったのだろう。だがその直後に慌てて「今は外国があひて―国と国との戦争です。みかたがあぶないと見れば、たすけなくてはなりません」と付け足している。
 たしかに近代戦の戦場で勇士の一騎打ちに敵味方とも手出しをせずに見物するというのは考えにくい。
 奥付を見ると昭和16年7月25日発行とある。真珠湾攻撃の数か月前。まさに日米開戦前夜だ。こういう記述から時代の空気を読むことができそうだ。