福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2016年9月号掲載分

半世紀大事にされてきたプロレスラーのブロマイドのアルバム

 以前このコラムで紹介したプロレスの古いパンフレットを譲ってくれた下関在住の方からまた電話があった。今度はすべてのコレクションを処分したいという。聞くとどうやら再婚されるとのことで、相手への気遣いからコレクションを処分したいようだ。
 前回の買取のときにコレクションの全貌は見ていたが、その中でも白眉といえるのは今回仕入れたこのブロマイドのアルバムだった。世界中のレスラーのブロマイドが貼られたもので、そのうちのかなりのものに直筆のサインが入っている。
 電話ではそのアルバムも処分すると確認した。下関に向かう車の中で、いったいどれくらいの買値をつけようかと考えた。これは難題だった。
 じつはそのアルバムを売って利益を出すことだけを考えたらさほどの金額は出せない。その金額では彼が手放さないことは最初からわかっている。ただ看板商品として店のラインナップを充実させるためには買っておきたいと思った。そこで異例とも言える高額での買い取りをすることに決めた。
 古本屋というのは売ることと同等またはそれよりも多くのエネルギーを仕入れに注ぐ。利益が決まるのは仕入れだからだ。
古本屋の本棚に並ぶ本はむろん売るために陳列しているのだが、それと同時に「当店はこのような本を買い取りますよ」ということも示している。神田の古書店街を歩くと、専門的な学術書だけを集めた書店、古文書や浮世絵などの古美術の店、特定のジャンルの雑誌の専門店、エロ本専門店など様々な店がある。一度この古書店街を歩いてみれば、自分が集めた本はどの店が一番評価してくれるかわかるはずだ。
サブカルチャーの商品を仕入れたいならば、それなりの取り扱い商品を充実させる必要がある。実店舗を持っていないネット専業のよかばい堂のような店でも同じだ。ネット上の仮想店舗においてもやはり品ぞろえは重要だ。
さらに、ブログやツイッターフェイスブックなどのSNSで買い取った商品について告知すると、読んだ人から買い取りの依頼が来ることがある。この場合、相手とのやりとりなどを書き込むとより反応があるようだ。
 このアルバムは彼の青春そのものと言っても過言ではない。2枚目の写真をご覧いただきたい。細かな字でびっしりとレスラーの名前が書きこまれている。自作のアルバム索引だ。よく見ると子供の字だ。このコレクションが少年時代に始まったことがわかる。
 下関の高校を卒業して大阪で就職し、数年前に下関に帰ってきたという彼はその50年以上をずっとこのレスラーたちの写真と過ごしてきた。それを譲ってもらうのだから、それなりの覚悟が必要だろう。
 これは単なる商取引ではなくて、彼の半世紀にわたるコレクションとの「別れ」のなのだと思った。だからそれなりの通過儀礼が必要なのだろう。古本屋はその儀礼におけるMC(マスターオブセレモニー=司祭)なのかもしれない。
 準備と覚悟の甲斐あってか、話はまとまり仕入れることができた。合わせてそれ以外のプロレス本とストリッパーのサイン入り写真集も仕入れた。たしかにこれは再婚相手には見せたくないだろう。