「月刊フォーNET」2016年10月号掲載分
ずいぶん前に買い取ったまま放置していた古い演劇のパンフレットの山をひっくり返して検分していると、いろいろ妙なものが出てきては目に留まり、しかもそれがいちいち面白くついつい時間を費やして作業がはかどらない。
そのひとつをご紹介したい。「洋酒天国」はサントリー(当時の社名は寿屋)の宣伝部が発行していた雑誌。発行人はご存知の方も多いだろうが開高健。サントリーバー、トリスバーで手に入れることができたらしい。
たまたま見つけたこの号はピストルの特集。先日亡くなった永六輔のモデルガンやおもちゃのピストルのコレクションが写真で紹介され、ひとつひとつに永のコメントが付く。誰からもらったかなどが書かれていてこれも興味深い。
しかしこのコラムで紹介したいのは実はそれではなく巻末にある三行広告。そう、昔新聞にもよくあったあの三行広告がこの雑誌にもあることは知らなかった。
これがなかなか興味深いのでいくつか紹介しよう。「洋酒天国1〜13号是非譲受度し但米及餠、大豆小豆との交換望石川県珠洲市宝立町…」。戦後15年経った頃といえども洋酒天国との交換に穀物を使うことを望んでいたというのが面白い。どれぐらいの分量と交換したのだろうか。
「求交換当方純血シャム猫雄一才アランドロンをしのぐ美男相手方美女純潔に限」というのもある。アランドロンをしのぐのは飼い主でなくあくまでも猫のことだろう。文末には電話番号と苗字も書いてあるのが今ではありえない、いかにも60年近く前の感覚だ。
羊皮紙製のコプト教の聖書
こういうコレクションは珍しい。財を成した本好きが世界中を巡って様々な本を買い集めた中に含まれていた。大小10冊ほどまとめて買い受けた。
浅学な身としては初めて手にした羊皮紙だが、紙と名がつくもののさすがに動物の皮だけあってきわめて頑丈にできている。簡単に破けそうにはない。ただし、成分はタンパク質だろうから虫食いの心配なども気になる。おいおい勉強していこう。
なんの説明もないままに買い取ったので、最初はなんだかわからなかったが、おそらくこれが羊皮紙というものなのだろう、ネットで検索をしたらparchmentという英単語に行き当たり、これをさらに検索するとどうやら似たような本がネットで見つかり、どうやら自分の手元にあるものがコプト教の聖書であるらしいと推定したところだ。なにせ書かれている文字は見たこともないので、いったい何語なのかさえわからない。さいわい購入した店とおぼしきニューヨークのギャラリーのカードが挟まれていたのでそれも検索の際の助けになった。
価格を決めようといろいろ調べてもデータがきわめて少ない。本というよりはむしろ美術品として扱うケースが多いという人もいる。こそれでもこうやってあちこちに首を突っ込んで情報を探すのも古本屋の仕事の楽しい部分かもしれない。