福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

「月刊フォーNET」2016年11月号掲載分

吉永小百合
旅に夢みる  講談社 (2003/03)

 初版帯付きで吉永小百合本人の署名落款入り。
 署名入りの本はずいぶん扱ってきたがさすがに吉永小百合のサインは高い! 現存する作家のサイン本で高いのは大江健三郎村上春樹だと思うが、それに匹敵する。  
 サイン本と言ってもすべてが高いわけではない。売れっ子で頻繁にサイン会をやるような作家の場合、サイン本が多すぎて価格も暴落気味。ヤフオクで「サイン本」の落札実績を検索すると、1円からある。なかには有名な作家の本も混じっている。
 ブックオフの100円コーナーでサイン本を見つけた人もいるだろう。アマゾンの中古本にもサイン本なのにふつうの価格で他の古本と一緒に売られていることもしばしば見かける。
 数年前あるコレクターから大量のサイン本を買ったことがあるが、この人のコレクションは、現存する作家のものが大半で、古本屋が一番ほしい三島由紀夫谷崎潤一郎といった物故した大作家のサイン本は一冊もなかった。結局高く売れたのは百田尚樹のようにその時話題になっていた人だけだった。
 その経験からも思うのだが、現存する作家のサイン本は一部の例外を除いて高く売れるものはそう多くはない。
 ちなみにそのコレクション、ヤフオクの売れ残りをジュンク堂丸善ギャラリーで開催した古本即売会でなんと500円均一という安値で売ってみたが、それでも売れたのはごく一部。サイン本が1冊500円というのも、もの悲しいものがあるのだが。
 というわけで、吉永小百合で華々しく始まったサイン本の話だが、何やらさびしい結論となってしまった。
 

 

古い食料品や缶詰のラベルのコレクション

 以前このコラムで書いた記憶があるが、朝倉の印刷屋から出た酒のラベルを集めたスクラップブックが予想外の高値で落札されたことがある。
 今回は戦前から戦後にかけての主に食料品のラベルを集めたスクラップブックを手に入れた。お菓子の包み紙、缶詰のラベルなどに交じり「糸島郡桜井村トマト出荷組合」と書かれたA4サイズほどのラベルもある。たぶん段ボール(当時は木の箱なのかもしれない)に貼られていたものだろう。「宗像蜜柑 本場池野ネーブル 福岡縣宗像郡池野村」と書かれたものもある。「正味 貫 匁入」と書かれているから箱に貼るラベルなのは間違いなさそうだ。
 「筑紫名菓 志ようが糖 一名めさまし 筑紫郡山口村」というのもある。生姜糖別名目覚まし、と勝手に読み替えてみる。
 福岡・九州の地名が入ったものが大半だが、外地の地名もある。林檎の絵にローマ字と漢字で「旅順線営城子 鈴木二樹園」とある。調べてみると旅順線という鉄道に営城子という駅がある。
 「金州果実販売組合」の「金州みやげ」というのもある。「金州名所をぜひ見物に 帰へりは土産に果物を 三崎山 金州城 大和尚山 南山」とある。どれも見たことのない地名なので外地のものだろうと調べると、果たして遼東半島の地名だった。
 どうやらこのスクラップ、印刷屋が見本帳のように使っていたもののようだ。というのも裁断個所を示すアタリのついたままのラベルや、何に使うかわからないが左右反転した(鏡に映ったような)印刷物も混じっている。
 もちろん描かれている絵もレトロ感満載で興味深く、ちょっと見るつもりが1時間あっという間に立ってしまった。これでは仕事にならない。古本屋が肝に銘ずべきは売り物に耽溺するなかれということか。