福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

よかばい堂、爆買いされるの巻


 福岡の古本屋には無縁だろうと思っていた「爆買い」を経験した。
 発端は1本の電話。わずかに関西なまりのある知的な女の声(余談ながらひとこと。「女の声」と書いたからとて不審な女でも怪しい声でもない。巷間使われる「女性」という語感が不快なので自分では使わず、女と書く。その方が意味的に中立だと思っている)で電話があり、貴店は仏教書を扱うかと問う。もちろん古書店だから幾許かの仏教書はある、いや先だってかなり仕入れたばかりだと伝えると、直接見て買いたいと言う。
 ネット専業の弊店には店舗がないと言うが、それでも構わない実物を見て買わせてくれぬか、いや実は買いたいのは私ではなく外国人で気に入った本があればポンと百万円使うこともある人だという。
 そりゃ剛毅な話だが残念ながら弊店は珍本稀覯本が山積する老舗でもなし、お越し下されど狭小なる書庫しか案内できない、本には値札にもついてない、すなわち顧客対応は極めて不備であると言うのだが、声の主は一向に意に介さない。
 イエスというまで受話器を置かぬ切羽詰まった気配すら伝わってくる。そこまで言われりゃあ古本屋冥利に尽きますぜとばかりついに譲歩して、お越しいただくのは構いませんが、外国の方が日本語を読めるのですかと聞いてしまった。すると、書い手は中国人なので漢字の本は問題ないという。確かに仏教書特に教典関係は漢字ばかりだ。
 わかりましたご案内させていただきます。ただし当方中国語はよくしませんから通訳の準備はそちらでお願いしますというと、わかりました、ところで英語かフランス語はどうですかと聞いてくる。いまさら下手に抵抗しても遅い。受けたからには気持ちよくやろう。サバイバルイングリッシュで十分だろうと思い、まあ何とかなるでしょうと答えた。学生時代のフランス放浪経験でどうにかなるだろう。
 来店希望の方は中国のお坊さんだそうで、知的な女の声が後で本人から電話させます、と言う。程なくして、なんと中国語なまりのフランス語で話す若い女の声で電話が来た。
 はてどうしたものか。「フランス語を話す中国人の若い女の坊さん」からどんな人物もイメージできぬ。
 来店当日。長丘の弊店旧事務所に大型バスで御一行様到着。写真でお分かりの通り剃髪の立派なお坊さんである。通訳を兼ねた添乗員はサバイバル外国語で苦闘する当方を見て勝手に自分は不要と判断し、残りの客のケアのため坊さんチームを弊店に残して立ち去った。坊さんは大学教授と共にわが新事務所へと案内し書庫で本をご覧いただいた
 さすがに目の付け所がしっかりしており珍しい重要な資料や本を片っ端から積み上げていく。おおこれが名にし負う爆買いかとの感慨に浸る間もなく、こちらは価格を調べて計算するのにスタッフ総出で大わらわ。
 小一時間の買い物が終わり、お茶でも飲みましょうということでテーブルで撮ったのがこの写真。フランス留学で医学を学んだと茶飲み話で聞いた。
 後日お坊さんの名前をネット検索すると中国ではかなりご高名な方である模様。随行の旅行代理店の日本人曰く、上海から3時間ほどのところにある曹洞宗のお寺の一番偉い人らしい。
 計算が終わるとクレジットカードを出されたが、弊店では使えないのでホテルで現金を払うということになりお送りする。さらに本を別送したいとのことで博多郵便局まで案内して長い一日を終えた。