よかばい堂、シングルレコードにまみれるの巻
二千二百枚の歌謡曲のシングル盤をネットオークションで落札した。最近レコードも見積もってほしいという要望が増えたので、勉強のために買ってみた。大量ではあるが品質の保証なしのジャンク品なので大した額ではない。一枚ずつネットで調べているのだが、これが存外に面白い世界が広がっているのでご紹介してみよう。
まず、なぜ洋楽でなく歌謡曲なのかというと、弊店のばあい買い取るのは歌謡曲が多いからだ。「本の処分のついでにレコードも見てもらおう」という人が多いので、マニアの蒐集品というよりも普通の人が聴いたレコードを扱うことの方が多ので、たくさん売れてよく聞かれた音楽、つまり歌謡曲やポップスを扱うことが多いということになる。
さて、その二千二百枚だが、当然ながら知らない曲がほとんど。無名の演歌歌手、素人が作った自主制作盤、クラブのママが客にねだって作らせたようなこれまた自主制作盤、売れなかったアイドルやフォークグループなどなど。
一方で「この人レコード出してたの?」というような意外な有名人(たとえば逸見政孝、中西太、渡辺謙…)のものもある。
「自主制作盤」というのは、本で言うところの自費出版だろう。そうは書いてはいないが、ジャケットに金がかかってないから大方の見当はつけやすい。
自分の歌声に自信がある素人が作って知り合いに配り、あわよくば有線放送局に置かせて電話リクエストして自慢してみたい、というあたりかもしれない。カラオケマイクを持ったパンチパーマのおじさんや、店のカウンターに座ったおばさんの写真を使ったジャケットが目に付く。メイクやヘアや衣装も素人っぽさが抜けないのは当然のこと。これはこれでひとつの世界がありそうだ。
もちろんプロのレコードも多い、というか数から言えば売れなかったプロ歌手のレコードが一番多いだろう。
そんな中でも作詞家や作曲家の名前を見ると意外な人が作っていたりして、これがまた興味深く、この世界にハマっていきそうな予感すら覚えるほどだ。
たとえば霜和夫という初めて聞く歌手の『逢いたい気持』という盤があるのだが、作詞作曲がユーミンであることを「発見」しちょっと驚いた。
「松本隆さん黒歴史シングル」という素晴らしい(?)うたい文句をつけられてオークションに出品されていた『赤い櫛』(三木たかし作曲、歌・響たかし)というのもある。
この歌、出だしの歌詞はこうだ。「この身も心もあなたにゆだねて ただひたむきに愛してきました」
うーむ、たしかに『赤いスイトピー』や『木綿のハンカチーフ』を書いた天才作詞者にしてこんな歌詞を書いていたことがあるのかと、黒歴史という言葉もあながち大げさでもないと納得する(余談ながら私個人は松本隆をはじめ、はっぴんえんどとそのメンバー全員のファンです)。
昨今は「昭和歌謡」なる新語で呼ばれている歌謡曲は、意外と奥が深くいろんな楽しみかたがまだまだありそうだ。
今どきは安いレコードプレイヤーも出ているし、大量のレコードにまみれて歌謡曲の森に分け入ってみるのも安上りな遊びだという気がしている。
松本隆の「黒歴史」『赤い櫛』。1975年の作品。ちなみに名作『木綿のハンカチーフ』も同年の作品。
『白い花嫁』(なかにし礼日本語詩 EDDY MARNAY原作詩)
アニタ・ムイ(梅艷芳)という夭逝した香港の歌姫が歌う。ネットで非常に高い。
『夜・・・・・・酒組』(歌・秀樹と影武者、作曲・小野ヤスシ)作詞はなんとタモリ!。「ちょっと そこ行く おじさん 振り向いた顔が 悲しいね」