古本の出張買取はどうやるのか?
よかばい堂はネット販売専門で、今のところ店舗を持っていない。「今のところ」というのは、いずれは店舗を持ちたいとひそかに思っているからだが、家賃を払い店員を置き優良な在庫を揃えて棚の手入れをするとなると、大きな負担増になるのは間違いなく、現在は夢想するのみ。
店があれば古本を買いたい人も売りたい人も来店してくれるので、非常に便利だ。ネット販売の最大の課題はどうやって買取りをするか、ということだ。ホームページを見て電話くれる人もいるが、ネットをしない年齢層の人にも広告を見てほしい。そう考えてよかばい堂では新聞広告を出稿している。
今までに朝日毎日読売の全国紙と西日本に出稿してきた。経験から言うと、古本屋と全国紙は相性がよい。
理由はふたつある。ひとつは広告費が安いこと。西日本新聞など地元紙は発行部数が多いので広告費も高い。
もうひとつは、全国紙を読む人は地方紙よりも読書人が多いこと。データに基づいているわけではないが、実感に即して言うと全国紙に出稿すると電話の本数も多く、本の質も高い。
遠方からの電話もかかってくる。全国紙のばあい広告が九州全域(山口を含む)に掲載されることがあるので、対馬を含む九州各県から電話が入る。
もちろんそのすべてで出張買い取りをするわけではない。遠方へ行くのは最低でも数万円程度、できれば数十万円の買取りが見込める場合に限っている。
福岡市内ならあまり詳しく聞かなくても出かけていく場合もある。ほんの近場なら詳しく聞かずに直行することもある。現物を見た方が早いからだ。
さて、電話を受けると会話だけでどんな本やレコードを売りたいのかを把握しなければならない。百科事典や文学全集・美術全集あるいは小説・自己啓発本・ビジネス本などしかなければ買取はできない。これを聞き出すのは思いのほかむずかしい。
「どんな本が多いですか?」と尋ねてもそう簡単には蔵書内容を把握できない。文庫のことを単行本と言ったり、新刊書のことを新書と言う人は思いのほか多い。
説明できないのは、自分が買った本じゃないから。そんなときは、集めた人の職業を尋ねるのが手っ取り早い。ただ、いきなりどんな職業ですかと聞くとぶしつけなので、「失礼ですがお父様は学校の先生をなさっていたのですか?」などと聞くようにしている。先生と言われて気分を害する人はまずいないし、間違っていても向こうから「いえ教師ではなくて銀行員だったんですが漱石が好きでした」などと言ってくれることも多く、こうなればしめたもので、「じゃあ金融関係の本もありますか?」などと聞きやすくなる。
あとはいつ頃の本なのかを知りたいのだが、そのためには本を集めた人の生年を聞くのが一番だ。「生きていれば90歳」などとわかれば、その人の壮年期がいつごろかを計算していつ頃の本が多いか察しが付く。
たとえば、「高校で日本史を教えていた父が3年前85歳で他界したのですが、その蔵書を処分しようと思います」というように聞くと、買える本がどれくらいあるかはおよそ見当がつく。福岡市内やその近郊ならこれだけで出張してもいいぐらいだ。
「国史大系」「岩波講座日本歴史」「日本史大事典」「フロイス日本史」や年表類などが目に浮かぶ。
先日まさに高校で日本史を教えていた人の蔵書を平戸まで行って買わせていただいた。
「歴史の本がたくさんあります」と電話で言われてよろこび勇んで出かけたら、何のことはない時代小説の山でほとんど買取りができなかった、などということがないように詳しくお聞きするのである。