福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

90年前にドイツ留学した人の旧蔵品

 90年前にドイツに留学した大学教授(仮にQ氏と呼ぶ)の蔵書を買い取った。蔵書と合わせて捨てられる運命にあった書類も合わせて引き受けた。じつはこの書類(というか古文書の類)に古本屋は目がない。時として面白いものが「発掘」されるからだ。もちろん何も出てこないこともあるのだが。

 今回は1928年の日付の入った日本郵船「諏訪丸」のディナーのメニューリストが出て来た。当時はまだ旅客機などない船旅の時代だ。おそらくこの船でドイツに向かったのだろう。メニューリストというのは、文字通り船で出てくる食事のメニューが書かれたリストだ。

 日本郵船のものは木版画の浮世絵があしらわれた表紙の内側に英語またはフランス語の料理名が書かれていて、立派なものだ。

 ebayのような海外のオークションサイトにもこういった旅客船のディナーメニューリストが出品されているところをみると、世界中にコレクターがいるのだろう。

 長い船旅の毎日出てくるメニューリストを集めたらかなりの数になるが、それを全部捨てずにとっておいたようだ。こういうものは時として本よりも貴重な資料の場合もある。

   Q氏には収集癖があったのだろう、これだけでなく欧州各国を旅行した際に入手した各地の観光パンフレットやその地で購入した絵葉書もたくさん出てきた。

 じつはこの手の資料や古文書はなかなか古本屋にまで回ってこないことが多い。ゴミと間違えられて捨てられてしまうことが多いからだろう。集めた本人は捨てないだろうが、本人が亡くなったあと遺族がまっさきに捨てるのはえてしてこういった類の紙類だろう。

 当時のドイツの週刊誌もかなりの数まとまって出てきた。雑誌も日本まで持って帰って来たことがすごい。

 ヒトラーが政権を取るのは1933年だが、その後の雑誌にははっきりとナチス色が強くなり、ヒトラーの写真が表紙を飾ることが増える。日本の記事が増えてくるのは同盟国だからだろうか。

 それと対照的にナチス以前の時代のものはアールデコのデザインの写真が多く、現在からみても洒落ている。

 Q氏は旧制五高の卒業だったようで、そのせいか漱石の初版本なども数冊出てきた。Q氏の五高在籍時期は大正の初期だったようなので、漱石の講義を聴いてはいないはずだが影響はあったのだろう。

 

 

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ドイツの週刊誌Die Woche 英語のザ・ウィークにあたるらしい。 1920年代の3冊。ベルリンのアールデコの香りがする表紙のデザイン



 

 

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ナチス時代のDie Woche。ヒトラーの表紙



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日本郵船「諏訪丸」のメニューリスト。1928年4月10日に神戸を出て5月20日馬耳塞(マルセイユ)着とパッセンジャーリストにある。



 

 

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古い漱石の本。『吾輩は猫である』『文学評論』『彼岸過迄