事業継承について考えてみた
不肖よかばい堂店主も還暦を迎え、いまさらながらではあるが事業継承について考えている。古本屋の多くは個人事業でやっているところが多く、親族に後継者がいれば円滑に継承できようが、そうではない場合は自分の手で店をたたむか、死んだ後に遺族がたたむか場合が多い。実際、古書店主が死んだ後、遺族が残された本を他の古本屋に売る話は何度か耳にした。ただし、この場合遺族も愕然とするほど安いこともよくある。
卸値だから安いというだけではない。高齢だからだろうか、時流に乗り遅れ安くなってしまった本が大半だということがしばしばあるのだ。
近年は特にインターネットの影響で古本の相場も大きく変わってしまった。昔の典型的な高額本が大きく値を下げてしまった例は枚挙に暇がない。古書の専門家とはいえ、やはり齢を重ねるごとに時流に乗り損ねてしまい、暴落してしまった過去の栄光のような本ばかり抱えたまま死に、遺族にはなけなしの額しか残せない、ということもあるようだ。
もちろんそれでも構わないのだが、せっかくここまでできた店をただ単にたたんでしまうのではなく、それ以外の選択肢はないものだろうか、と余計なことで頭を悩ませているわけだ。家族や社員が引き継いでくれるという店ならば問題ないが、そういう後継者がいない場合はいったいどうすればいいのだろうか?
そう思い、まずは個人事業を法人化してしまうということを考えた。そうすれば売る対象がはっきりするから売りやすくなるのではないか?
それで何人かの専門家に話をきいてところを、私なりにまとめてみるとこういうことだ。
まずは個人事業を法人化することについてだが、これは意外と簡単らしい。よかばい堂の場合すでに株式会社は作っているので現在営んでいる個人事業を法人に売却すればそれでいいという。なんだかずいぶん簡単な話だが専門家が言うのだからそうなんだろう。在庫その他も自分で価格を決めて売ればいいらしい。
ここまでは登場人物は「私」と「株式会社よかばい堂」だけすなわちほとんど自分ひとりだから、なんとかなるだろうが、最大の問題はその法人が本当に売れるかどうかだ。
そのためにはポイントがある。これも専門家の受け売り。まずは利益が出ていること。当たり前だ。
利益が出るとは具体的には社員への給料を含むすべての支出を終えて、社長(自分)にも役員報酬を、法人税も払い、さらにできれば株主へ配当する、ということになる。なるほど。そこまでいけばかなり立派なものではないか。いやいや、感心ばかりしている場合ではない。こういう会社は世の中にはごまんとあるのだから、自分もしっかりその仲間入りをしなければならないのだ。
次のポイントは「正社員がいること」。パートタイマーだけの会社は危険とみなされる。ノウハウを持った正社員がいることが重要だということだ。もちろん定年間近の正社員じゃ買収相手も困るだろうから、壮年の正社員が望ましい。
もうひとつの条件は債務がないこと、というのもあったが、これはよかばい堂に限らず多くの古本屋には特に債務はないはずだ。だいたい古本屋なんて零細な現金商売だから、金を借りて事業拡大するなんていう話はあまりきかない。債務をつくりたくてもそもそも貸し手がいるのか、という話だ。それに今や古本屋の販売ルートでもっともメジャーなものとなったネット販売では代金回収でつまずくことは稀だ。
というわけで、自分でつくったハードルの高さにいまさらながら愕然としているのだが、目標ができたのだからそれもまた楽し。ひそかに、といいつつここに書いてしまったが、〇年後に目標を設定し今日から張り切っていこうと思っている。