福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

よかばい堂、放蕩の叔父の後始末を手伝うの巻

九州のとある温泉町で買い取りをしてきた。叔父が残した本を買い取って欲しい、某月某日に東京からその温泉町に行くので来てくれないか、と女の声の電話だった。東京在住の彼女の亡き叔父が残した本だという。

 本の詳細について尋ねると携帯に写真が送られてきた。大量の洋書に日本語の医学書がはさまっている。本のうしろにあるアンティークな棚に目が行く。むしろこちらの方が商売になりそうだ。洋書と言っても通り一遍の本ばかりで大した額にはなりそうもない。ほかに陶磁器や絵画もあるというので、そちら目当てで行くことにした。

 大量の洋書と幾ばくかの医学書の写真から、本を集めた「叔父」は医者だろうと思った。開業医なら金があるだろうし、医者なら外国語が読めるだろう。

 現地に赴き電話の主と会うと「本当にはた迷惑な叔父で、世界中のあちこちに住んではこんなにいろんなものを買い集めて、不動産もあちこちに残して死んでしまって、後始末が大変なんです」と言う。分限者一族が謙遜で言ってるんだろうと思っていたが、どうやらそんな単純な話でもないことが徐々に分かってくる。だいいち医者だとしたら、世界のあちこちに住んだってどういうことだ?

 広い屋敷内をまわり、本・絵画・掛軸・アンティーク家具・陶磁器などの所在を案内される。やたらモノが多く、未開封のものもある。

 一緒に作業をしているうちに打ち解けだしたのか、彼女は生々しい親族間の利害関係についても語りはじめる。「叔父様はお医者様だったようですね」と尋ねたことがきっかけで、たまっていた不満がほとばしり出したようだった。

「医者だったのは祖父なんです。その祖父が都内の一等地に持っていた土地を、叔父は勝手に印鑑を持ち出して売ってしまったんです。それだけじゃなく私の父が貯めた預金も勝手に引き出して使ってしまい、父がいざ家を建てようとしたら預金がゼロになってる。もう本当にひどい叔父でした」

 話しているうちに叔父への怒りが再燃したらしく、表情も怒気を帯び始めた。

 なるほど。しかし都内の一等地を売った金で買ったにしては、それほど高価なものはない。シャガールピカソ山下清ターナーなどが出てくるが、どれも複製画やリトグラフでせいぜい数十万円程度で売られていたものだろう。百貨店の包装紙に包まれたままの陶器の箱も出てきた。彼女によれば日本橋三越のお得意様だったという。

 きっとこの人は美術好きというよりは買い物好きだったのだろう。

 いわゆるコレクションと呼ばれるものには、自分なりの審美眼なり見識に基づいた筋が一本通っているのだが、ここに集められた絵や焼物にはそれがない。おそらくは百貨店外商部の勧めに応じて買い集めたのだろう。

 結局本はほとんど買わず、絵画と茶器類を車に載せて帰った。私の手に余る大型の家具類については知り合いの古道具屋を紹介した。

 都内の一等地を売って手にした金で買い漁ったものも、結局は大したお宝はなかったという話にはうら悲しいものだ。

 それでも安物でもそれなりの売買をすれば儲けは出るから、よかばい堂の商売はちゃんと成立している。

 そう、アンティーク家具を忘れるところだった。後日現場入りした古道具屋に電話してみたら、「あの家具、一見アンティークに見えるんですけど実はアンティーク風に作っただけの新しいものなんです」といわれた。やれやれ。