福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

お金持ちの蔵書について

 

 この商売をやっていると、時としてお金持ちの家に上がることがある。その反対はあまりない。出張買取りに出向く先は本を大量に買う余裕があるから、貧困な家はあまりないのだ。

 先日は老人ホームの最上階にある100㎡以上はあろうかという広大な部屋に呼ばれた。そのホームの経営者が住んでいた部屋だ。本人は死にその奥さんから呼ばれたのだが、彼女も法人の役員で、裕福な生活ぶりが一見してわかる。

 CDを数千枚と本棚4つ分の本、さらには未使用のカセットテープやMDの買い置きが棚一つ分あった。ご主人が大事にしていたものなので廃棄することは忍びなく、とにかくだれかに使ってもらいたい、自分で捨てることだけは避けたい、というのが彼女のたっての希望で、高く売りたいという気は毛頭ないのである。

 条件は一つ、すべて搬出してくれという一点のみ。値の付かない本も全部搬出してくれという。高そうな本棚も、音響機器もすべて搬出すること。その代わりお金は一切いらないという。これだと話は早い。こちらとしても助っ人を日当を支払って数人呼べば大型家具類は搬出できる。不要な本の搬出と処分を引き受けたとしても、その手間にかかるコストをじゅうぶん吸収できるだけの利益が見込めるので引き受けることにした。

 この女性は自らも老人ホームや幼稚園の役員をしているからだろうか、人を使うことに慣れているのだろう。単なる金持ちというだけではない。自分の意図に沿って人を動かすにはそれだけでは無理だ。彼女は頭の回転も良いし、何しろ腹が座っているので判断が速い。

 普段は私の仕事に興味を示さない妻なのだが、その日は金持ちの家に行くというと興味を示し手伝ってくれるというので一緒に現場入りしたら、その老婦人と話し込んで、なんと昼食代としてちゃっかりお小遣いまで頂戴していた。それだけじゃなく、家具を引き取る助っ人についても「あなたのお手伝いの若い衆にはお茶代で〇〇円渡すけど、二人分でいいね?」と事前に私に尋ねてきた。実際にお金を渡す段になると、助っ人たちが私(よかばい堂)に気兼ねして受け取らないと見るや「大丈夫、あんた達のボスには話を通しているから」と言ってしっかりお茶代を渡していた。なかなか腹の座った女傑とでも呼ぶべき見事な老婦人だった。

 福岡の代表的な豪邸街からも呼ばれたことがある。和風建築の豪邸の庭にはほうきを持った使用人とおぼしき老人のほか数人の使用人がいた。中庭の見える日本間に並べられたのは本だけでなく筑前琵琶が六張ほど。いずれも売り主の父親(故人)が集めたものだという。

 じつはこの故人の作った会社からもそれより数年前に本を買い取ったことがあった。この人、財産を成したあと趣味の書籍や骨董集めが高じて、世界中で買いまくっていたらしい。海外のギャラリーのカードが挟まった羊皮紙の本や、古い薬の看板、外国の小学校や中学校の教科書なども出てきた。

 ある古本屋も自分の店にその老人が本を買いに来たときの様子を語ってくれたことがあったが、運転手付きの黒塗りの車で乗りつけてごっそり買って帰ったという。

 そうやって買い集めたものを置いておく場所もやはり持っていた。元々は別の用途で建てられた建物群を買い取ったらしく、その中で一番大きな建物をまるごと書庫としていたようだ。よかばい堂が呼ばれたときはすでにその整理がずいぶん進んでいたのだが、それでもダンボール箱で400箱以上はあったはずだ。一箱30kgとして12トン、と言えばその量がわかっていただけるだろうか。

 その会社には、創立者である故人にゆかりの品々をの集めた記念館があり、その学芸員が遺品を整理して、創立者本人ゆかりの品以外を処分するために弊店に声がかかったのだった。