福岡古本買取よかばい堂の古本買い取りコラム       福岡の経済誌「月刊フォーNET」連載中!

福岡古本買取よかばい堂の店主が、福岡の経済誌「フォーNET」に連載中のコラムの過去掲載分です。

秋の佐賀平野にドライブがてらの仕入れの旅に行くの巻

 佐賀からの電話で、日本史の教師だった夫を亡くしその蔵書を売りたいと言う。

日本史の本は相当に専門性が高くないと買い取りが難しい。高校の先生は研究者ではないから、狭い範囲を掘り下げた研究書は期待できない。古本屋から見れば、そういう部数の少ない専門書は値崩れしないのでありがたい。しかし高校の日本史では歴史の大きな流れを教えるわけだから「岩波講座 日本歴史」のようなものが蔵書に多いはずだ。残念ながらこうした本は発行部数が多く古本相場も値崩れしていることが多い。

 電話で蔵書内容を聞くにつくかぎりは、まさにそのような蔵書が多いので、わざわざ佐賀まで出向いてもはかばかしい成果が見込めるのかはなはだ疑問なのである。古本屋にとって仕入れは重要だが、わざわざ一時間かけてたどり着いた先で、仕入れるものが何もないというのはぜひとも避けたいところだ。

 そこで「本以外にもレコードなどの古いものもお見積りしますよ」と言うと、「ちょうど断捨離中なので納屋からいろんなものが出てきます」というではないか。佐賀の納屋なら期待できそうだ。

 その日はたまたま時間がたっぷりあり秋日和で気持ちよくドライブできそうだったし、本以外に面白いものも出てくるかもしれない。出てこなかったら、それはそれでドライブしたと思えばいいではないか。

 果たして行ってみると秋の陽を浴びての佐賀平野は実に快適で、絵にかいたような農村地帯にある一軒家にたどり着いた。

 20年前に建て替えたというその家には薪ストーブが備え付けられておりなかなか素敵なつくりだ。めざす本棚はそのストーブの横に置かれていたのだが、案の定買える本はそれほど多くはない。郷土史の本数冊を抜かせてもらい、念のために聞いてみた。

「じつは本よりも古い資料、たとえば戦前の写真や郵便物などが買えることはよくあるんですが、そういうものの処分の予定はありませんか?」

「ああ、ありましたけど、もうほとんど処分してしまいました。このストーブの焚き付けにして燃やしましたよ、わはは」と高校教師の未亡人は豪快に笑い飛ばす。

 しょうがない、よくあることだ。ここでいちいち残念がっていては身が持たない。そう言ってもいいほど頻繁にある話なのである。気を取り直して、納屋を見せてもらうことにする。

 さすがにいろんなものが出てくる。古いガラス戸から始まって足踏み式のミシン、木の根っこの置物、食器・漆器などなど。その中で目を引いたのは昔の牛乳ビンが2ダースほど入る牛乳配達の箱だ。むかし牛乳配達が自転車の荷台に括り付けていたものだ。横には「グリコ」と書かれているその箱を二つ仕入れた。

 結局大した仕入れにはならなかったが、それは先刻わかっていたこと。ドライブしに来たのだと割り切ろう。

 帰りしな未亡人にどこかこの辺で見るところはないか聞くと、九年庵という紅葉の名所があるという。今は11月だしいいタイミングだと、帰りに寄ってみることにする。未亡人は「今はハイシーズンだから駐車場が空いているかなあ」とおっしゃるが、行ったら行ったでどうにかなるだろうと思ったのだが甘かった。ものすごい人出だった。佐賀でこれほどの混雑を見たことはないというレベルだったので見物はあきらめて秋の陽を浴びながらのドライブで福岡に戻ることにした。